パワーコマンダー燃調セッティングのコツ

せっかくパワーコマンダーを手に入れたのに、セッティングはホームページからダウンロードしてきたものを適用しているだけ、それじゃあもったいない。このページではシビアに空燃比を測ったりするんでなく、感覚的に簡単に燃調を設定する方法を紹介します。車種やパワーコマンダーのバージョンには関係なく参考になるかと思います。

マフラーを換装したり、エアフィルタを換装したり、はたまたプラグや点火系を変更したときに、チューンナップをしたはずなのに調子がおかしくなった、といったような症状も改善できます(なお、ここでは燃調についてだけ触れます。点火時期の調整は含まれてません)。
※もちろん設定は自分の責任で行ってください。このサイトも著作者kunも保障しません。


よくある症状

だいたいこんなところで困っていると思います(たいていカスタムしたら起きる症状)。
これらはひとまずパワーコマンダーで簡単に改善することができます。

[表1 よくある症状と原因]

  症       状 原因
(1) パーシャルまたはエンブレ時にパンパン言う
→社外品のスリップオン着けた時とかにこうなります;いわゆる抜けがいいから… プラグを「トルクマスター」に替えたり、ハイテンションコードを「ノロジー・ホットワーヤー」に替えた時にもこうなりました。
【薄い】
(2) 突然タンクの下あたりで「シュコッ」とか「バシュッ」という音がする
→その瞬間、エンジンが「息継ぎ」する感じ。ノンカスタムでもパーシャル時に発生したりします。
(3) 運転しづらい・疲れる;スロットルに過敏に反応する
→ギクシャクというか、ドンツキというか、特に街乗りなどの低速時だとかなり疲れる。トルクを感じられない。空ぶかしの反応はよい。
(4) スロットルにエンジンの回転がついてこない;鈍い
→ちょっと回転数を合わせるための「ブォッ」が鈍い;そのあと排気がガソリン臭い。
【濃い】
(5) スロットルを開ける時に排気の方でパンって言う
→薄い時とタイミングが違って、開ける時にこうなる。ただし失火(なんらかの理由で着火せず燃焼しなかった時)している場合も同じ感じ。
(6) エンジンが温まってくると反応が鈍くなる
→走り始めはいいけど、だんだん鈍くなったり、信号でエンジンが止まったり‥ 高原など標高の高いところを走ったりする時に調子が悪くなることもあります。;空気が薄くなる、相対的に燃料が濃くなる

「自分のは全部あてはまる」なんてこともあるでしょう。でもこれらを一歩一歩ひとつずつちゃんと改善できれば、安全で運転しやすい、スムーズなバイクに仕上がるはずです。

「パワーアップしたい」「トルクアップ」という方にも、ひと通りやってみれば効果があるかと思います。


〜ところでパワーコマンダーの「燃調」の前提知識から〜

「濃い」か「薄い」しかない

さてパワーコマンダーに限らず、燃調は先の[表1]のように「濃い」か「薄い」しかありません。濃過ぎても、薄過ぎても調子が悪いのです。
この 「濃い」か「薄い」かを、

  • エンジンの回転数
  • スロットル開度

に応じてちょうどいいところにできるのが、パワーコマンダーの機能です。

“ちょうどいい”にするは?

ではこのちょうどいいところにするには、、、そう、ここが「コツ」です。(1)どの回転数で、(2)どのくらいのスロットル開度の時、(3)「濃い」のか「薄い」のかが判れば、それを記録しておいて、あとは

  • 濃過ぎるところは薄くなるよう、負;マイナスの数値を、
  • 薄過ぎるところは濃くなるよう、正の数値を、

パワーコマンダーに数字を入れてやるだけです。

パワーコマンダーのマップは“ゼロマップ”から

インターネットから自分のバイクに近いマップをダウンロードして使っている方もいますが、自分用に作ってもらったものでのない限り、しっくりくる設定のものはないようです。
ヘタに「どこを何のため」にいじってあるか判らないものを更にこね繰り回すより、パワーコマンダーについてくる「ゼロマップ」(設定値が全部ゼロでうめてあるもの)から自分で作ったほうが簡単にいいものができます。


いよいよパワーコマンダーでの燃調のコツ

基礎知識はここまでとして、具体的なコツを。
エンジンの回転数はもちろんタコメータをチラチラ走りながらみるとして、そのほかのスロットル開度のとらえ方などの具体的なコツは次のとおり。アナログなキャブよりもやり直しがカンタンなので、マップはバックアップを取りながらじゃんじゃん試してみるといいです。

《コツ1》スロットル開度が判るようにマーキング
20%おきくらいに、スロットルに目印をつけておくと便利です(これはキャブの調整でもよくやりますね)。これは走る前にパワーコマンダーにパソコンをつないで、コントロールソフトを立ち上げると、画面で確認できます。

《コツ2》走りに行く時にはメモを持っていく
頭で覚えてくれば一番早いところですが。メモしてくるのはもちろん、回転数,スロットル開度,症状です。

その場で判断して設定できるなら、ノートパソコンを持っていくのはかなりいいです。でもやっぱりどういうつもりで、どう設定したかはメモしておいた方が絶対に後で混乱せずに設定ができます。

《コツ3》設定はこまめに「2ポイント」ずつ
あとは症状にあわせて、原因が「薄い」だったらひとまずその回転数,開度のところの数字を「+2」したものを入力する。たとえばもともとが「0」だったら「2」を入力します。
反対に原因が「濃い」だったらその回転数,開度のところの数字を「-2」したものを入力する。たとえばもともとが「0」だったら「-2」を入力します。
あとちょっとだったら「+1」または「-1」です。
どうにも判らなくなったら、極端に増減(+10とか)してみると判りやすいかもしれませんが、薄くしすぎるとオーバーヒートするので注意。
あとは何回か繰り返しいろいろなシチュエーション(加速したり、エンプレかけたり)でそれぞれ設定していくと、たんだん良くなってきます。最後にもう一つコツを。

《コツ4》こつこつ気長に繰り返す
だんだんスパッと設定できるようになってくるので、あせらずこつこつ気長に行きましょう。
いろいろな症状が複数でていても、回転数と開度がそれぞれちがうはず。よく判らなくなったらまた来週、今日のメモと見比べながらやってみましょう。

こつこつ少しずつ


設定値の意味【参考1】

パーシャル,エンブレ,加速のそれぞれの設定はどこでするのか?とまえに聞かれたことがあります。

結論からいうと、すべてパワーコマンダーの設定画面(Excelみたいなスロットル開度と回転数の数値表)の数値を変更することで設定します。エンブレ時、加速時、それぞれの設定する場所の分布は下のような感じになると思います。

fig. 5[スロットル開度と回転数]

設定画面をおおまかな分布図にしたものが左の図です。ここで真ん中の灰色の線がパーシャル(そこのスロットル開度で回転数がそこから上がりも下がりもしない)の線です。これに対して、、・スロットルを開けてないのに回転数が高い→エンブレ状態。・スロットルを開けているのに回転数が低い→加速状態

(1) 加速領域:
〜加速状態の設定〜
スロットルを開けているのに回転数がパーシャルより低い(これからだんだん回転数があがって加速していくところ)。ここを濃くプラスの数値を入れてやると、加速時にたくさんガソリンが出ることになります。たくさん出れば加速する、というわけではありません。濃くしすぎてカブる可能性があります。

(2) エンブレ領域:
〜エンブレ状態の設定〜
スロットルを閉めているのに回転数がパーシャルより高い(エンブレがかかっているところ)。ここを濃くプラスの数値を入れてやると、エンブレのかかりが弱くなります。あまり数値を大きくしすぎると、スロットルを戻したらなぜか加速する、みたいなことが起きるので注意です。


fig. 6[パワーコマンダーの設定画面]

こちらが対応するパワーコマンダーの設定画面(少々古い)。なお現在の開度などの数値は、パワーコマンダーの電源が入っていないと通知されてきません。左の画面は100%を指しています。

パワーコマンダーの働き【参考2】

パワーコマンダーとは何なのか?そもそもパワーコマンダーとEFI(Electronic Fuel Injection System:燃料噴射装置)の関係はどうなっているか?です。

まずEFIによる燃料噴射のコントロールは、おおまかに次の三つの部品で構成されています。
(1) スロットルや、その他センサ類などの「コントローラ」
(2) コントローラの指示で、実際のガソリンの吐出量の制御信号を出しているコンピュータ「ECU」
(3) 制御信号に従ってガソリンを吐き出す「EFI」

これの(1)と(2)の間、または(2)と(3)の間にパワーコマンダーが入り込んで、そのデータを補正します。

左の図は、パワーコマンダーの設置の模式図です。まさにECUとEFIの間に位置していて、ECUとEFIの間の信号をリアルタイムに書き換えて受け渡している訳です。

またパワーコマンダーは「サブコン(サブコントローラーの略?)」とも言われ、直接EFIのマップを書き換えるものではありません。パソコン上のコントロールセンタで入力する設定値の「+1」とか「-2」とかは、オリジナルのEFIのマップに対しての補正値なのです。

この辺を図にしたものを下に示します。


fig. 2[オリジナルのEFIマップ]

もともとのEFIが持っているマップです(ある回転数のときの、とします)。とはいっても実際にはこのマップを見ることはできません。メーカがノーマルパーツに合わせて最適となるように設定してくれてあるものです。でもこれは直接いじれないので「パワーコマンダー」の出番、になります。
 

fig. 3[パワーコマンダーの補正値]
それぞれ、個人の好みや、アフターパーツの都合でEFIを調整(補正)するデータを用意します。(パワーコマンダーの添付ソフト「コントロールセンタ」で設定するヤツです)
 

fig. 4[補正後のEFIマップ]
実際にエンジンに吐き出されるガソリンの量は、左のグラフのようになるわけです。中学で習うんだったか、「波の合成」と同じです。fig.2とfig.3のグラフの合成(たし算)が左のfig.4のグラフになるわけです。

 

(kun所感)パワーコマンダーのイイ所・イマイチな所

(1) いい所 シリンダー数に関係なく全体で1種類の設定、分解も不要
→キャブだとシリンダーごとにやらねばならんので大変。タンクを外したり、手が入らないとかも。そして4気筒だと4個。
(2) バイクのデフォルト設定から「薄くする/濃くする」だけの調整
→キャブのようにスロージェットだのメインジェットだのニードルだのといろいろ考えなくてもいい
(3) 本体のECUの設定を書き換えないのでいつでも元に戻せる
→どうにもワケが判らなくなっても、もともとの設定に戻せる安心感
(4) パソコンに過去の設定を残しておける
→設定をいくつでもファイルとして保管しておける。設定の目的をメモとしてファイル名にしておけば分かりやすい。1コ前の方が良かった、とか言う時にすぐに戻せるし、季節ごとやシチュエーションごとにマップを用意したりとかもできる
(5) イマイチ パソコンがないと設定できない
→キャブならドライバーがあればできちゃうことが、パソコンなきゃできない→なんとなく敷居が高い気がする、多少パソコンのスキルも必要
(6) 「低回転全般に」のような設定が難しい
→あまりにデジタルで“だいたい”の設定がしづらい。キャブならちょっとスクリュー回して「こんなもんかな?」なのに。

おまけ:Buell XB12SsのECM(EFI)チューン

最近、BuellのECM(DUCATIで言う所のEFI)をいじって燃調セッティングしている。基本はパワーコマンダーの設定と同じ。「濃い」か「薄い」かを判別できればあとは調整するだけ。そうそう、メモとパソコンを持って出かけている。
Buellは接続ケーブルさえ用意すれば、あとはパブリックドメインのソフト(ECMSPY, EcmDroidなど)で設定できてしまう。ただしフルコン、元のマップをなくしたらそれまで…

XB12Ssようやくエンジン快調に!ECMSPYを使う

end…